入浴溺死事故、保険金の不払い

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保険金の不払い問題について

保険契約に基づき保険金請求をしたのに、保険会社から免責条項に該当する等の反論により、保険金が支払われないようなケースが想定されます。

万一のために契約し、お金を支払ってきたのにいざというときに保険金が支払われないのであれば、保険を掛けてきた意味がありません。

保険会社から納得のできない免責条項の主張があった場合、当事務所ではお客様と相談を重ね、有効適切な解決手段を見出したいと考えております。

入浴中の溺死事故(傷害保険)

浴槽内での入浴中の溺死事故は、数千件単位で発生しており、交通事故による死亡事故に匹敵するくらいの事件数となっています。

入浴中の溺死事故は、高齢者、かつ、冬場に多く発生するという傾向があります。そして、そのような溺死事故に関する保険金請求事件についても、溺死の原因が「急激かつ偶然な外来の事故」によるものか否かについて争われることがあります。

裁判では、①直接の死因が溺死であるか、②直接の死因が溺死であるとしても、それが疾病等身体の内部に起因するものであるかという点が争点となるケースが多いと思います。

簡略した考え方としては以下のとおりであると思います(私見)。

※私自身が判例を読み解釈した私見的な記述です。詳しくは原判決を当たってください。

1「急激かつ偶然な外来の事故」であることは保険金請求者が主張立証すべきである

2「外来の事故」の解釈
(1)日ごろ健康で既存疾患を有しない者が、入浴時の温度変化等のため、熱中症や低血圧等により一時的に意識を消失し、浴槽内で溺水を吸引して溺死(窒息死)する場合には、「外来の事故」に該当し得る。

(2)脳梗塞、狭心症、心筋梗塞等の既存疾患を有する高齢者が、入浴による温度環境等の変化を誘引として、病的な脳虚血発作や心臓発作等を生じ意識消失により溺死する場合は「外来の事故」に該当しない。

裁判によって争われた入浴中の溺死事件の争点
Xが入浴中に浴槽内で死亡したことが、保険約款1条の「被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によって」死亡したときにあたるかどうかである。

裁判所の判断(要旨)
急激かつ偶然な外来の事故であること(「外来性」の要件)は、傷害保険における保険金請求権の成立要件であるから、保険金請求者がこれを主張立証すべき責任を負うと解するのが相当である。ところで、ここにいう外来の事故とは、保険事故が発生した原因が被保険者の身体の外部にあることを意味し、保険事故の発生が被保険者の身体の内部的要因である疾病等に基づく場合は除外されると解するのが相当である(大阪高等裁判所H19.4.26)。

※以下は、私なりの裁判例の理解です。批判もあるかと思いますが参考程度にお読みください。

裁判例の考え方によれば、内部的な要因とは、「高度の脳動脈硬化や、脳梗塞、冠動脈の狭窄、狭心症、心筋梗塞等の既存疾患を有する高齢者が、入浴による温度環境等の変化を誘引として、病的な脳虚血発作や心臓発作等を生じてそのための意識消失により溺死するに至った場合」等と理解することができるのではないかと思います。

そして裁判例では、 「 日ごろ健康であってなんら既存疾患を有しない者においても、特に高齢者にあっては、日常誰しも経験するような入浴時の温度変化等によって、たまたま熱中症や起立性の低血圧等の生理的な身体的反応により一時的に意識を消失することがあり、その場合、浴槽の形状、湯量や老化による反射的な運動能力や身体的防御機能の衰え等も関係して、適切な防御態勢をとれないまま、浴槽内で大量に溺水を吸引して溺死(窒息死)するに至ることが起こりうるのである。そのような態様の事故はまさに突発的な溺死事故というべきであって、そのきっかけが入浴による日常的な温度変化等にあるとしても、これを身体の外部からの作用による事故であるというを妨げないと解すべきである。」 と判示しています。

これは、既存疾患を有しない者が入浴時の温度変化により熱中症や低血圧等の身体的反応により、一時的に意識を消失し溺死するような場合も身体の外部からの作用による事故であるということを妨げないとしてしていると思われます。