「被害者との示談ができたのに、子どもは帰ってこられないのですか?」
少年事件では、ご家族が示談の成立に期待することと、実際の手続との間に、ずれが生じることがあります。
被害者に謝罪し、被害弁償をして、示談が成立した。それでも、家庭裁判所で少年鑑別所に収容する観護措置がとられ、身体拘束が続くことがあります。
では、少年事件では示談をする意味が小さいのでしょうか。
この記事では、成人事件との違いや、少年事件で示談に取り組む意味について、当職の弁護・付添人活動の経験を交えてご説明します。
成人事件では、示談が不起訴や釈放につながることがあります
成人の刑事事件では、捜査段階で被害者との示談が成立し、被害回復がなされ、被害者も処罰を求めない意思を示したことなどが考慮されて、不起訴となり、釈放されるケースがあります。
「宥恕(ゆうじょ)」とは
宥恕とは、加害者を許すという意味で用いられる言葉です。示談書では、被害者が処罰を求めない意思などを記載することがあります。
少年事件では、示談が成立しても身体拘束が続くことがあります
では、少年事件でも、示談が成立すれば成人事件と同じように手続が終わるのでしょうか。
少年の犯罪事件では、捜査の結果、犯罪の嫌疑があると認められる場合、原則として家庭裁判所へ送致されます。
そのため、捜査段階で示談が成立し、被害者から処罰を求めない意思を示していただいた場合でも、家庭裁判所への送致後に、少年鑑別所に収容する観護措置がとられることがあります。
示談が成立したことだけで、身体拘束のない状態で家庭裁判所の調査や審判を受けられると決まるわけではありません。
被害回復とは別に、検討される事情があります
示談によって被害者との関係が整理されても、それだけで、少年本人の課題や生活環境の問題まで解消されたとは限りません。
家庭裁判所では、事件の内容や少年の状況を踏まえ、調査・審判への出頭を確保する必要性や、少年鑑別所で鑑別を行う必要性、少年を保護する必要性などを検討します。
また、最終的な処分を考える場面では、本人が事件をどう受け止めているか、帰宅後の生活をどう整えるか、家族がどのように支えられるかといった点も重要になります。
当職は、受任時にこの違いを説明しています
ご家族が「示談さえできれば、すぐに帰ってこられる」と考えていると、示談が成立したのに観護措置がとられた場合、大きな戸惑いにつながります。
そのため当職は、受任時に、少年事件では示談の成立だけで帰宅や処分が決まるわけではないことを、あらかじめ説明するようにしています。
これは、示談を諦めてもらうための説明ではありません。示談に向けた対応と、少年本人や生活環境への働きかけを、並行して進める必要があることを共有するためです。
身体拘束の期間や手続については、少年鑑別所での収容期間と審判までの流れをご覧ください。
すぐに釈放されなくても、示談に取り組む意味はあります
被害回復に取り組んだ事実を伝えることができます
示談により被害回復がなされたことは、家庭裁判所が判断する際の事情の一つになります。
示談成立に至らなかった場合でも、どのような謝罪や被害弁償を申し出たのか、本人が何を考え、保護者がどのように対応したのかという経過は、裁判所に伝えることができます。その意味や評価は、事件ごとに異なります。
結果として示談が成立したかどうかだけでなく、被害回復のためにどのような対応をしたかも、丁寧に整理することが大切だと考えています。
保護者の支払いと、少年本人の受け止め方は別です
少年事件では、示談金を保護者が負担することもあります。しかし、保護者が支払ったという事実だけで、少年本人が事件と向き合ったことになるわけではありません。
本人が被害をどう理解しているのか、被害者への謝罪や被害弁償について何を考えているのか、今後どのように行動しようとしているのか。こうした点も、面会を重ねながら確認していきます。
弁護士コラム|示談の重みを感じた経験
保護観察という判断を支える事情になったと感じた事案
当職が担当した事件の中には、少年院送致になるか、保護観察になるか、判断が分かれ得ると感じていた事案で、示談が成立し、最終的に保護観察となったケースがあります。
裁判所が示談をどの程度重視したのか、示談がなければ別の結果になったのかを、断定することはできません。
それでも当職としては、示談が成立し、被害回復がなされたことが、保護観察という判断を支える重要な事情の一つになったのではないかと受け止めています。
「示談すれば必ず帰れる」とはいえませんが、「示談しても意味がない」ということでもありません。この両方を、ご家族にはお伝えしたいと思っています。
少年本人や家族だけでは、示談の申出が難しいこともあります
被害者に謝罪したい、被害弁償をしたいと考えても、本人やご家族だけでは、連絡を取ること自体が難しい場合があります。
被害者の連絡先が分からない場合
当職の経験では、捜査初期の段階で、捜査機関が本人やご家族に被害者の連絡先を伝えない場合があります。
被害者のプライバシーや接触に対する不安、当事者間のトラブルなどへの配慮が背景にあると考えられますが、具体的な対応は事件によって異なります。
弁護士が依頼を受けた場合には、捜査機関を通じて、被害者に謝罪や被害弁償の申出を取り次いでもらえるか相談するなど、連絡の方法から検討します。
ただし、弁護士であっても、必ず連絡先を教えてもらえるわけではありません。被害者の意向に配慮しながら、対応を進めます。
直接の接触が、被害者の負担になる場合
本人やご家族が誠意をもって謝罪しようとしても、被害者にとっては、直接連絡を受けること自体が不安や負担になる場合があります。
また、当事者同士で話すことで感情的なやり取りになり、話合いが難しくなることもあります。非行の内容や両者の関係によっては、直接接触することが適切でない場合もあります。
そのようなときは、本人側の代理人である弁護士が窓口となり、被害者の意向を確認しながら話合いを進めることに意味があります。
示談成立を、在宅での調査・審判に向けた活動につなげる
示談が成立しても自動的に身体拘束が解かれるわけではありませんが、成立した事実を、身柄解放に向けた意見の中で伝えることは重要です。
家庭裁判所への送致が見込まれる段階では、示談の経過を整理するとともに、帰宅後の生活や家族による見守りについても確認します。
そして、観護措置に関する判断に間に合うよう、在宅でも調査・審判に対応できる事情を具体的に伝える準備をします。
弁護士コラム|家庭裁判所への送致時に行った対応
示談の成立と、在宅で対応できる事情を意見書で伝える
当職が担当した少年事件では、家庭裁判所に送致された段階で、示談が成立していることや、在宅での調査にも十分対応できると考える事情を、速やかに意見書として提出したことがあります。
その事件では、結果として少年鑑別所に収容する観護措置がとられず、少年は在宅のまま家庭裁判所の調査・審判を受けることになりました。
もちろん、示談や意見書だけが理由で、その判断になったと断定することはできません。
ただ、「示談が成立しました」と報告するだけでなく、「帰宅しても調査・審判に対応できる」という事情を併せて伝えることの大切さを感じた経験です。
最終処分でも、示談だけで結論が決まるわけではありません
成人事件では、起訴された後でも、示談や被害回復の事実が量刑を判断する事情となり、ほかの事情と併せて、刑の全部の執行猶予という判断につながることがあります。
ただし、執行猶予は刑の執行に関する制度であり、捜査中や裁判中の身体拘束を避ける制度そのものではありません。
少年事件でも示談の事実は考慮されますが、示談が成立していても、少年院送致となることはあります。
家庭裁判所では、非行の内容に加え、本人の受け止め方、生活環境、再非行を防ぐために必要な支援なども検討されます。
弁護士コラム|少年事件で感じる難しさ
示談の成果だけでは、処分の見通しを立てにくい
当職の実務上の感覚として、少年事件では、成人事件以上に、示談が成立したという一つの成果だけでは、最終的な処分の見通しを立てにくいと感じます。
これは、少年事件では示談が一律に軽く扱われるという意味ではありません。
被害者との関係が整理されても、少年本人が抱えている課題や、帰宅後の生活環境に問題が残っていれば、それらへの対応が必要です。
示談という成果を大切にしながら、それだけで活動を終えないこと。この点に、少年事件の難しさと、付添人活動の重要性があると考えています。
示談交渉と並行して、帰宅後の生活を整えます
「一日でも早く帰ってきてほしい」というご家族のお気持ちを大切にしながら、帰宅後にどのような生活を送れるかを、本人・ご家族と一緒に考えます。
- 本人との面会:事件や被害について、本人がどのように考えているかを確認します。
- 家庭での見守り:帰宅後、誰がどのように本人を支えるかを具体的にします。
- 学校や仕事:復帰に向けて確認・調整すべきことを整理します。
- 交友関係や生活習慣:同じ問題を繰り返さないために、何を変える必要があるかを考えます。
- 裁判所への報告:被害回復の経過、本人の変化、生活環境の調整状況を伝えます。
少年事件の示談は、成立したかどうかだけを見るのではなく、その前後の本人や家族の対応も含めて考える必要があります。
被害回復に誠実に取り組むことと、少年が家庭に戻って生活できる環境を整えること。その両方を進めることが大切だと考えています。
少年事件の手続・付添人活動について
- 少年鑑別所での収容期間と、帰宅までの流れ
- 少年事件で付添人が行う活動
- 少年鑑別所での面会【初期編】|信頼関係を築くために
- 少年鑑別所での面会【中期編】|生活改善を考える支援
- 少年鑑別所での面会【審判直前編】|模擬審判と準備
少年事件の示談や、今後の対応でお悩みのご家族へ
片岸法律事務所では、被害者への対応だけでなく、少年本人との面会、ご家族との相談、家庭裁判所に向けた準備を含めて、事件の状況に応じた弁護・付添人活動を行っています。
「示談の申出をしたい」「示談は成立したが、今後どうなるのか分からない」といった場合も、ご相談ください。
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