少年鑑別所で少年と面会を重ねていると、ある時期から、少年の考えが変わってくることがあります。
最初の面会では、「自分はどのような処分になるのか」ということばかり気にしていた少年が、次第に、自分自身の考え方や行動の問題点に目を向けるようになるのです。
この変化を感じられることは、少年事件の付添人活動をしていて、特にやりがいを感じるところの一つです。
1 面会を重ねる中で変わっていく少年の考え方
少年鑑別所に入った当初は、多くの少年が、これから自分はどうなるのかという不安を抱えています。
少年院に送られるのか、それとも自宅に帰ることができるのか。自分の処分に関心が集中するのは、ある意味で自然なことだと思います。
しかし、面会を重ね、自分のしたことや、これまでの生活を振り返るうちに、少しずつ考える内容が変化していきます。
面会初期
自分の処分への関心
少年院に行くのか。いつ帰れるのか。自分の今後への不安が中心。
面会中期
自分自身への気づき
なぜ非行に至ったのか。自分の考え方や生活の何が問題だったのか。
審判に向けて
これからの生活を考える
同じことを繰り返さないために、自分は何を変える必要があるのか。
もちろん、すべての少年がこのように段階を踏んで変化するわけではありません。しかし、面会を重ねる中で、処分への関心から、自分自身の問題へと目を向け始める少年は少なくありません。
2 少年自身が考え始める改善策
面会の中期頃になると、少年は、これまでの生活を振り返り、今後どのように生活を改善するのか、具体的な話をするようになります。
例えば、少年からは次のような言葉が出てきます。
少年が考える生活改善の例
- 友人関係の見直し
悪いことをする友達とは距離を置き、同じ環境に戻らないようにする。
- SNSとの関わり方
SNSの利用をやめ、問題のきっかけになったアカウントを削除する。
- 学校生活の改善
学校を休まず、毎日きちんと通学する。
- 生活の立て直し
仕事と自宅での生活を中心に、規則正しい生活を送る。
- 他人の気持ちを考える
自分のことだけでなく、相手の気持ちや立場を考えて行動する。
このほかにも、様々な角度から、自分の問題点や改善方法を考え始めます。
また、自分の気持ちを整理するため、反省文を書き、その中に考えたことを綴る少年も多くいます。
最初は、自分の処分のことばかり考えていた少年が、これまでの生活を振り返り、将来の自分の行動について真剣に考え始める。その姿には、確かな変化を感じます。
3 付添人として、少年の考えをどう受け止めるか
少年が自分なりに考えた改善策を話してくれたとき、私は、まず、その努力を認め、褒めるように心がけています。
少年にとって、自分の未熟さや問題点を正面から考えることは、決して簡単な作業ではないからです。
もっとも、褒めて終わりというわけではありません。
まず、努力を認める
自分で必死に考えたことを評価する。
考え方が変わり始めたことを伝え、その努力を大切にする。
さらに、考えを深める
考えが不十分な部分にも目を向ける。
すぐに答えを与えず、審判までの宿題として、自分で考えてもらう。
例えば、「悪い友達とは距離を置く」と話した場合には、なぜこれまでその友達との関係を断てなかったのか、再び誘われたらどうするのか、といったことまで考えてもらいます。
「学校にきちんと通う」という話であれば、これまで通えなかった原因は何だったのか、その原因が再び生じたときにどう対応するのかを考える必要があります。
大切なのは、付添人が正しい答えを教えることではなく、少年自身が、自分の問題を掘り下げて考えることだと思っています。
4 家庭裁判所調査官との面接を見据えて
少年鑑別所に収容されている少年については、家庭裁判所調査官との面接が行われます。面接の回数は事件によって異なりますが、私が担当する事件では、3回程度行われることも多くあります。
私自身は、できれば2回目くらいの面接までに、少年が自分の問題点や改善策について考え、自分の言葉で話せるようになってもらいたいと考えています。
それは、調査官にも、少年の考え方が変化し、成長し始めていることを感じてもらいたいからです。
ただし、調査官に良い印象を与えるために、決まった答えを覚えさせるという意味ではありません。
5 大切なのは「100点満点の反省」ではない
反省の言葉が立派であることと、本当に反省していることは、必ずしも同じではありません。
私が大切にしているのは、少年が自分の問題と必死に向き合い、自分自身を変えようとしているか、という点です。
そもそも、いくら立派な言葉を並べ、正しい考え方を示したとしても、それだけで調査官や裁判官から「十分に反省している」と評価されるとは限りません。
なぜなら、実際にその改善策を実行できるかどうかは、これからの生活にかかっているからです。
友人関係を改める、学校に通う、家族との関係を改善する、他人の気持ちを考えて行動する。言葉にすることはできますが、それを継続して実行することは簡単ではありません。
そのため、私が重視するのは、模範解答のような反省の言葉ではありません。
- 自分の行動の何が間違っていたのか、真剣に考えているか。
- これまでの考え方の未熟さに気づき始めているか。
- 同じことを繰り返さないため、自分に何が必要か考えているか。
- その考えが、少年自身の言葉として語られているか。
自分の考え方の軸が、少しずつ規律ある生活を送る方向へと変わり始めている。
その変化を、調査官や裁判官にも感じてもらうことが大切だと考えています。
6 保護観察中の再非行から試験観察となった事例
実際に、付添人として活動する中で、少年の考え方の変化が強く印象に残った事件があります。
付添人活動で印象に残った事例
その少年は、保護観察中に再び非行に及んでしまいました。
事件の経緯からすると、少年院送致となる可能性が高いと考えられる事案でした。
しかし、少年は鑑別所での生活を通じて、自分のこれまでの行動を真剣に振り返り、今後どのように生活を改めるべきか、必死に考えました。
そして、家庭裁判所調査官との面接では、涙を流しながら、自分の気持ちやこれからの生活について語りました。
結果として、この事件では、直ちに少年院送致とはならず、試験観察となりました。
もちろん、少年が涙を流して気持ちを語ったことだけで、その判断がなされたわけではありません。事件の内容、非行歴、少年の生活環境、今後の更生可能性など、様々な事情が考慮されたものと思います。
それでも、少年が本気で自分の問題を考え、変わろうとしている姿を示したことには、意味があったのではないかと感じています。
7 付添人として、少年の変化を支えたい
少年事件の付添人活動では、少年の言い分を聞き、家庭裁判所に必要な資料を提出し、審判に向けた準備を進めることが重要です。
しかし、それだけが付添人の役割ではないと考えています。
面会を重ねる中で、少年が自分の未熟さに気づき、これまでの考え方を振り返り、今後どう生きていくのかを考える。その過程に関わることも、付添人として大切な仕事だと思います。
少年が口にした改善策が、実際に実行できるかどうかは、まだ分かりません。
それでも、これまでの自分と向き合い、必死に考え始めたこと自体に、私は大きな意味があると感じています。
少年に求めたいのは、反省についての100点満点の回答ではありません。
自分の問題に気づき、悩み、考え、少しずつでも正しい方向へと歩み始めること。
そのような少年の変化を支えることが、私が少年事件の付添人活動で大切にしていることの一つです。
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