交通事故で車の修理費が高額になり、修理費が車の価値を上回るときは、実務上、車両時価額を基準に損害額を検討することが多くあります。以下では、法律論の細かな説明ではなく、当事務所の実務感覚をもとに、車両時価額の算出方法を分かりやすく解説します。
この記事のポイント
- 全損時は、車両時価額を基準に損害額を検討します。
- まずはレッドブックで評価額を確認します。
- レッドブックに掲載がない場合は、中古車サイトの相場をもとに算出します。
- 同じ車種でもグレードの違いで価格が変わるため、車台番号等から確認が重要です。
- レッドブックは税抜表示であるため、請求額の検討では消費税相当額の加算を忘れないことが重要です。
- 改造車両は、通常の車両よりも交渉・立証が難しくなります。
1 車両時価額とは
交通事故で車が大きく壊れ、修理費が高額になった場合でも、常に修理費の全額が認められるとは限りません。修理費が車両の価値を上回る場合には、実務上、「その事故当時、その車にどれだけの価値があったか」という観点から、車両時価額を基準に損害額を検討することになります。
特に、年数が経過した車両では、新車価格や購入時価格ではなく、事故時点における中古車としての価値を把握することが重要です。
2 当事務所で実際にどのように算定していくか
(1)まずはレッドブックから算定する
実務では、まずレッドブックを確認します。レッドブックでは、車種・年式・型式・グレードなどから、中古車としてのおおよその評価額を把握することができます。
保険会社との交渉でも、レッドブックの記載は一つの有力資料になります。まずは対象車両について、どの型式・どのグレードに該当するのかを正確に確認し、その上で掲載額を出発点として検討します。
重要ポイント:レッドブックは税抜表示です
ここは実務上、特に注意したいポイントです。 レッドブックの価格は、通常、消費税抜きで掲載されています。そのため、損害額を検討する際には、消費税相当額を加算した金額で主張を組み立てることが重要です。
当事務所でも、車両時価額を検討する際には、「レッドブックの金額をそのまま使わない」ことを意識しています。税抜額のままで話が進んでしまうと、請求額が一段低くなってしまうおそれがあるからです。
| レッドブック掲載額 | 500,000円(税抜) |
|---|---|
| 消費税相当額(10%) | 50,000円 |
| 時価額の検討例 | 550,000円 |
上のように、レッドブック掲載額が50万円であっても、実際の請求では55万円を基礎に検討する、というのが一つの実務的な考え方になります。
(2)レッドブックに載っていない車両は中古車サイトから相場を調べる
年式が古い車両や、流通数が少ない車両では、レッドブックに記載がないことがあります。この場合、当事務所では、中古車サイトを検索して相場を調べる方法をとります。
具体的には、車種・年式・走行距離・グレードなどが近い車両を一定範囲で検索し、複数台の価格を集めます。そのうえで、検出された価格の平均値を参考に、事故車両の時価額を検討していきます。
- 同じ車種
- できるだけ近い年式
- 近い走行距離
- 近いグレード
- 修復歴の有無にも注意
もちろん、掲載価格は販売店の希望価格ですから、そのまま絶対的な時価額になるわけではありません。ただ、複数の相場資料を積み重ねることで、交渉上の説得力は高まります。
| 比較車両 | 中古車価格 |
|---|---|
| A車 | 420,000円 |
| B車 | 460,000円 |
| C車 | 440,000円 |
| D車 | 480,000円 |
| 平均値 | 450,000円 |
たとえば上のような場合は、45万円前後を一つの目安として、車両時価額を主張することになります。
(3)グレード情報の調査も重要
同じ車種名でも、実際には多数のグレードが存在し、グレードによって評価額が変わることは珍しくありません。そのため、「車種は分かるが、どのグレードか分からない」という場合には、グレードの特定作業が重要になります。
実務では、車台番号などを手がかりに調査を進めます。メーカー公式サイト、ディーラーへの照会、車台番号照会サービス等により、グレードが判明することがあります。
- 車検証の記載内容を確認する
- 車台番号から情報を調べる
- メーカー公式サイトや販売店で確認する
- 過去の売買契約書やカタログが残っていないか確認する
この作業を丁寧に行うことで、本来より低いグレードで評価されるリスクを防ぐことができます。
(4)改造車両の場合は別の難しさがある
改造車両では、通常の車両以上に交渉が難しくなることがあります。改造は一度だけでなく、複数回にわたって行われることも多く、どのパーツに、いつ、いくらかけたのかを裏付ける資料がそろわないことがあるためです。
また、仮に改造費用そのものを立証できたとしても、その全額がそのまま車両価値に上乗せされるとは限りません。 改造部分にも経年劣化があり、評価のされ方が問題になります。
裁判例の中には、改造費用の総額について減価償却を考慮したうえで、その30%を事故と因果関係のある損害として認めたものもあります(大阪地裁・令和4年(ワ)第1461号)。
したがって、改造車両では、改造内容の一覧、領収書、写真、整備記録、購入履歴など、可能な限り資料を集めることが重要です。
3 実務イメージ:一つの事例
たとえば、10年以上経過した国産車が事故で大きく損傷し、修理費が90万円かかるというケースを考えます。車両の年式や走行距離からすると、修理費は明らかに高額で、経済的全損として処理される可能性があります。
この場合、まずはレッドブックを確認し、対象車両のグレードに対応する評価額を調べます。仮にレッドブック掲載額が48万円(税抜)であれば、当事務所では、消費税相当額を加えた52万8,000円を一つの基準として検討します。
もしレッドブックに掲載がない場合には、中古車サイトで同程度の車両を複数台調査し、価格帯を整理します。その結果、近い条件の車両が50万円前後で流通しているのであれば、その相場資料をもとに時価額を主張していく、という流れになります。
事例の流れ(イメージ)
- 修理費:900,000円
- レッドブック掲載額:480,000円(税抜)
- 消費税相当額:48,000円
- 時価額の検討:528,000円
- 必要に応じて中古車相場資料でも補強
4 弁護士コメント
当事務所の実務感覚としてお伝えしたいこと
車両時価額の算定は、「絶対にこの方法でなければならない」というものではありません。実務では、対象車両の種類、年式、流通状況、資料の有無によって、使える資料も変わります。
大切なのは、合理的な方法で評価額を組み立てることです。レッドブックが使えるならそれを出発点にし、載っていなければ中古車相場を集め、グレードや車両状態も丁寧に確認する。そうした積み重ねによって、保険会社との交渉でも説得力が出てきます。
特に、レッドブックが税抜表示である点を見落とさないことは重要です。ここを丁寧に確認するだけでも、請求額に差が出ることがあります。
また、古い車だからといって、必ず低い金額でしか評価されないわけではありません。車両の状態が良い、流通数が少なく一定の需要がある、改造内容に資料が残っているといった事情があれば、交渉の余地はあります。しっかり資料をそろえていけば、希望額に近づけることは十分可能です。
5 まとめ
- 全損時の車両損害は、まず車両時価額の検討が中心になります。
- 基本資料はレッドブックです。
- レッドブックは税抜表示なので、消費税相当額の加算を忘れないことが大切です。
- レッドブック未掲載車両は、中古車サイトの相場資料で補います。
- グレード特定や改造内容の立証によって、評価額が変わることがあります。
交通事故の物損では、車両時価額の算定方法ひとつで、最終的な損害額に差が生じることがあります。特に年数が経過した車両では、資料の集め方と整理の仕方が非常に重要です。お困りの方は、早い段階でご相談ください。
法律相談のご予約・お問い合わせ
法律相談をご希望の方は、ご都合のよい方法でお問い合わせください。
平日 9:00~17:00
24時間送信できます
24時間送信できます
片岸法律事務所
〒546-0043 大阪市東住吉区駒川3丁目12番5号
弁護士 片岸寿文(大阪弁護士会)
電話:06-6628-6202
