成年後見業務と施設入所について
成年後見人等に就任した場合、財産を管理するだけではなく、本人が今後どのような生活を送るのかについても考えていく必要があります。
成年後見人の仕事には「財産管理」と「身上保護」があります。身上保護とは、本人の生活、介護、医療などに関して必要となる契約や手続を行うことをいいます。
例えば、介護サービスの利用契約、施設への入所契約、医療機関への入院手続などがこれに当たります。一方、成年後見人自身が食事や入浴の世話など、実際の介護を行うことまで求められているわけではありません。
施設入所を検討する場合も、単に空いている施設を探せばよいというものではありません。本人の意思、これまでの生活、心身の状態、必要な介護の程度、本人の収入や財産状況などを考慮しながら、今後の生活を組み立てていく必要があります。
施設入所と本人の生活の拠点
住居については、本人がこれまでどのような生活を送ってきたのかを考慮することが大切です。
例えば、長年生活してきた自宅を離れて施設へ入所する場合には、新しい環境に馴染むことができるか、本人が施設入所についてどのような意向を持っているか、在宅生活を継続する方法はないかなどを検討する必要があります。
成年後見人は、本人の意思を尊重し、本人の心身の状態や生活状況に配慮して後見事務を行わなければなりません。
もっとも、本人の身体状況や認知症の程度、介護を行う家族の状況などから、在宅生活を継続することが難しい場合もあります。そのような場合には施設入所を検討し、入所後についても、施設職員やケアマネジャー等と連携しながら本人の生活状況を確認していくことになります。
どのような施設があるのか
高齢者が利用する施設にはさまざまな種類があります。本人の要介護度、医療やリハビリの必要性、希望する生活、費用などを考慮して選択することになります。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)は、常時介護が必要な方に対し、食事、入浴、排せつなどの日常生活上の介護や機能訓練、療養上の支援などを提供する施設です。
新たに入所する場合は、原則として要介護3以上であることが必要です。ただし、要介護1または2であっても、認知症や家族の状況などにより居宅での生活が著しく困難であるなど、一定の事情がある場合には特例的に入所が認められることがあります。
入所を希望すれば直ちに入所できるとは限らず、施設によっては待機期間が生じることもあります。本人の状態や緊急性なども踏まえ、複数の選択肢を検討することがあります。
介護老人保健施設
介護老人保健施設(老健)は、病状が安定した方などについて、在宅復帰を目指してリハビリテーション、必要な医療、看護、介護などを提供する施設です。
そのため、特別養護老人ホームとは施設の役割が異なります。長期的な生活の場として利用することだけを目的とする施設ではなく、本人の状態を確認しながら、在宅復帰や次の生活場所を検討していくことになります。
旧ページでは入所期間について一定の期間を目安として記載していましたが、現在は一律に「何か月で退所しなければならない」と考えるのではなく、本人の状態、リハビリの状況、施設の方針などを踏まえて個別に検討する必要があります。
施設入所契約と成年後見人の役割
本人に契約をするための判断能力がない場合には、成年後見人が本人を代理して施設入所契約を締結することがあります。
施設を選択する際には、介護内容だけでなく、本人の収入や財産から継続して施設費を支払うことができるかも確認する必要があります。
また、施設に入所した後も、成年後見人は施設にすべてを任せればよいというものではありません。本人の生活状況を確認し、必要に応じて施設職員、ケアマネジャー、医療機関、親族などと連絡を取りながら、本人に必要な支援を検討します。
施設入所後に自宅を売却する場合
施設への入所によって自宅に戻る予定がなくなり、自宅を売却して施設費や今後の生活費に充てることを検討する場合があります。
しかし、成年被後見人の居住用不動産を売却する場合には、成年後見人の判断だけで処分することはできません。
本人の居住用不動産を売却、賃貸、賃貸借契約の解除などにより処分する場合には、あらかじめ家庭裁判所の許可を得る必要があります。
本人がすでに施設に入所していて現在その自宅に住んでいない場合であっても、過去に居住していた自宅や、将来戻る可能性がある自宅については居住用不動産に該当することがありますので、注意が必要です。
在宅介護を続ける場合の後見業務
施設入所の必要性がまだ高くない場合や、本人が自宅での生活を希望している場合などには、在宅介護を続けることになります。
在宅生活を支える場合には、訪問介護、デイサービス、訪問看護その他の介護・福祉サービスを組み合わせ、本人ができる限り安定して生活できる環境を整えていきます。
本人に渡す生活費をどうするか
在宅介護の場合には、本人自身が使用する日々の生活費をどの程度渡すのかが問題となることがあります。
本人に一定の現金がないと不安になる場合もありますし、自分で買い物をすることが本人の生活の一部となっている場合もあります。
一方で、浪費が著しい場合や、第三者から金銭を要求される危険がある場合には、多額の現金を本人に渡すことが適切でないこともあります。
本人の意思を尊重しつつ、判断能力、これまでの生活状況、財産状況などを考慮して、本人が自由に使うことのできる金額を検討する必要があります。
デイサービスなどの介護サービスを利用する
デイサービスなどを利用することにより、食事や入浴、機能訓練、日中の見守りなどのサービスを受けることができます。
どのような介護サービスを利用するかについては、介護支援専門員(ケアマネジャー)などと相談し、本人の要介護度や生活状況に応じたケアプランを検討していきます。
その際も、成年後見人が一方的にサービス内容を決めるのではなく、可能な限り本人の意向を確認しながら生活を組み立てることが大切です。
もっとも、本人が希望する生活と、安全な生活を維持するために必要な支援とが一致しないこともあります。このような場合に、本人の意思を尊重しながら、どこまで支援を行うのかを検討することは、後見業務の難しいところの一つです。
本人の収入と財産を踏まえて生活を組み立てる
施設への入所を選択する場合でも、在宅生活を継続する場合でも、本人の財産状況を考慮する必要があります。
本人に希望があったとしても、それを継続するための年金収入や預貯金が十分でなければ、将来の生活を見据えて支出を検討しなければなりません。
成年後見人は、現在の預貯金だけでなく、年金その他の収入、施設費や介護費、医療費、税金などの支出を把握し、中長期的に本人の生活を支えることができるよう財産を管理します。
年金などの収入を確認する
成年後見人に就任した場合には、本人が受給している年金その他の定期的な収入を確認します。
年金の受給状況が明確でない場合には、必要に応じて年金事務所などの関係機関に確認し、本人が利用できる制度がないかを調査することも考えられます。
介護保険サービスを利用する
介護が必要な場合には、要介護認定の状況を確認し、介護保険サービスの利用についてケアマネジャーなどと打ち合わせを行います。
必要なサービスと本人の希望、本人が負担する費用などを確認しながら、本人に適した生活環境を整えていきます。
成年後見業務では「本人の生活全体」を考えることが重要です
成年後見業務では、預貯金を管理することだけが目的ではありません。
施設で生活するのか、自宅で生活を続けるのか、どのような介護サービスを利用するのか、その生活を本人の財産で継続することができるのかなどを総合的に考える必要があります。
本人の意思をできる限り尊重しながら、心身の状態、生活環境、必要な介護、収入・財産などを踏まえ、本人にとって安定した生活を組み立てていくことが成年後見人等の重要な役割となります。
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