執行猶予とは
刑事裁判で有罪判決を受けた場合でも、刑の全部の執行猶予が付されれば、判決確定後ただちに刑務所で服役することにはなりません。
現在の刑法では、一定の要件を満たす者について、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合、情状により、裁判確定の日から1年以上5年以下の期間、刑の全部の執行を猶予することができます。
執行猶予の期間を取消しを受けることなく経過すれば、原則として刑の言渡しは効力を失います。
なお、令和7年6月1日から、従来の懲役・禁錮は廃止され、拘禁刑に一本化されています。
執行猶予を目指すための弁護活動
執行猶予の言渡しを受けることができるか微妙な事件では、犯罪の内容だけでなく、事件後の被害回復、本人の反省、再犯防止のための生活環境などを具体的に裁判所へ示していくことが重要です。
弁護活動としては、事件の内容に応じて、被害弁償・示談、生活環境の調整、家族等による監督体制の構築、被告人質問の準備などを行います。
被害弁償・示談
窃盗、詐欺、横領などの財産犯では、被害がどの程度回復されているかは、量刑を判断するうえで重要な事情の一つとなります。
本人の資産や家族からの援助などによって被害弁償が可能であれば、弁護士が被害者との間で被害弁償や示談の交渉を行うことがあります。
示談が成立し、被害者から許しを得ることができた場合や、被害者が処罰を強く求めない旨の意思を示した場合には、その内容を裁判所へ提出することもあります。
もっとも、示談が成立したからといって、必ず執行猶予になるわけではありません。犯罪の内容、前科・前歴、被害の程度、本人の反省など、さまざまな事情を踏まえて裁判所が判断します。
被害者が被害弁償を受け取らない場合
被害者が被害弁償金の受取りを拒否している場合でも、弁償のための金銭を準備していることなど、被害回復に向けた姿勢を裁判所へ説明することがあります。
事案によっては贖罪寄付を行うことも考えられますが、贖罪寄付は被害者に対する被害弁償や示談の代わりになるものではありません。まず被害者への被害回復を検討することが基本となります。
再犯を防ぐための環境調整
犯罪に至った背景に生活上の問題がある場合には、その原因をできる限り具体的に整理し、同じことを繰り返さないための生活環境を整えることが重要です。
例えば、次のような点を検討します。
- 問題のある交友関係を断つ
- 安定した就業先や収入を確保する
- 家族による生活上の支援・監督体制を整える
- 安定した居住先を確保する
- 借金が生活上の問題となっている場合には債務整理等を検討する
- 医療やカウンセリング等の支援が必要な場合には継続的に利用する
単に「もう犯罪はしません」と述べるだけではなく、犯罪に至った原因をどのように取り除き、今後どのような生活をするのかを具体的に示すことが大切です。
情状証人
事件によっては、親、配偶者、兄弟姉妹、勤務先の上司など、今後被告人を支援・監督する方に公判で情状証人として証言してもらうことがあります。
その際にも、単に「今後は監督します」と述べるだけではなく、誰が、どのような方法で生活を支え、再犯防止のために何をするのかを具体的に説明することが重要です。
例えば、同居して生活状況を確認する、金銭管理を手伝う、定期的に通院へ同行する、就労を継続できるよう勤務先が支援するなど、事件の原因に応じた具体的な監督方法を検討します。
被告人質問と反省の示し方
刑事裁判では、被告人質問において、本人が事件についてどのように考え、今後どのように生活していくのかを裁判官に説明する場面があります。
反省文や謝罪文を作成することもありますが、抽象的に「反省しています」「二度としません」と述べるだけでは、十分に事情が伝わらない場合があります。
例えば、次のような点について、自分自身の言葉で具体的に説明できるよう準備することが重要です。
- なぜ犯罪に至ったのか
- 事件後、その原因についてどのように考えたのか
- 原因を解消するために何をしたのか
- 今後の仕事や収入をどう確保するのか
- どこで、誰と生活するのか
- 家族等からどのような支援を受けるのか
当事務所でも、公判前の打合せや接見において、事件に至った原因と今後の再犯防止策を本人と一緒に整理し、法廷で説明すべき内容について準備を進めます。
執行猶予中に再び犯罪をした場合
執行猶予期間中に再び犯罪をした場合には、執行猶予が取り消されることがあります。
執行猶予期間中にさらに罪を犯し、拘禁刑以上の刑に処せられ、その刑について全部の執行猶予が付かなかった場合には、原則として従前の執行猶予も取り消されます。
また、執行猶予期間中に犯した罪について罰金刑となった場合にも、執行猶予が裁量によって取り消されることがあります。
そのため、例えば交通事件についても、単なる交通違反であれば直ちに執行猶予が取り消されるというものではありませんが、飲酒運転、無免許運転、重大な速度違反や人身事故などによって刑事処分を受けた場合には、従前の執行猶予への影響を検討する必要があります。
執行猶予を目指す刑事弁護では、判決までの弁護活動だけでなく、判決後も安定した生活を続けることができる環境を具体的に整えることが重要です。
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