保険金の支払拒絶は不法行為(709条)が成立するか?

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保険金の支払拒絶と慰謝料

保険会社からの支払拒絶を受けた場合、精神的苦痛を受けたとして不法行為に基づく損害賠償請求ができるかという点について、裁判例を調べてみました。

裁判例を調べると、

がありました。

しかしながら、いずれのケースも保険会社の支払拒絶により不法行為は成立しないというものでした。

保険金の支払拒絶につき慰謝料請求した裁判例

名古屋地裁 平成17年9月7日

原告が自損事故を起こして損害を被ったとして、保険金の請求及び支払拒絶に対して慰謝料を求めたところ、

・・・原告に免責事由はないと判断したが、その判断は、原告と被告双方が主張・立証を尽くした上でも必ずしも容易なものではなかったと認められるのであり、被告の後遺障害等級認定の手続についての説明に一部誤りがあったこと(弁論の全趣旨)を考慮するとしても、被告の一連の対応がことさらに不法行為を構成するものであったと認めることはできない。

と判断し、全体として保険金請求は認めつつも支払拒絶に対する不法行為は認めなかった。

東京地裁 平成20年12月16日

原告は、盗難事故が生じたため保険金を請求するとともに、支払拒絶は、明確な根拠もないままに本件盗難が原告による自作自演であるかのような主張をしているものであり、当該主張は、原告の信用及び名誉を著しく毀損するものであるとして慰謝料100万円等を請求した事案につき、

被告が原告に対して送付した通知書には,本件車両の盗難が原告の故意に基づくとの疑いがある旨記載されていることが認められる。しかし,信用・名誉が毀損されるとは,社会的な評価を低下させることをいうのであるから,表現行為は一定程度他人に伝播する可能性がある態様によって行われることが必要であるところ,被告による上記通知はCにあてて送付されたものであるから,その内容が原告以外の他人に伝播する可能性はなく,被告の行為が原告の信用・名誉を毀損するものとはいえない。よって,原告の上記主張は採用することができない。

と判断し、事案の全体を見れば保険金請求を認めつつも、慰謝料100万円の請求については請求棄却をしている。

大阪地裁 平成24年4月16日

他車運転特約に基づく保険金の支払拒絶につき、弁護士費用や面談折衝等で多大な労力・時間・費用を要した実費相当額、上記対応を要したことの精神的損害に対する慰謝料等を請求したところ、

被告が本件他車運転特約の適用はないと判断したことが、全く根拠を欠いた明らかに不合理なものであったとまではいえず、被告が保険金支払を拒絶したことに不法行為に該当するほどの違法性があるということはできないから、不法行為にはあたらない。したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。

と判断し、保険金の請求を認めつつも不法行為については請求棄却としている。

支払拒絶と不法行為を考える

上記の裁判例の他、支払拒絶の不法行為については多数の請求棄却の事案がありました。

私がサーチした限りでは、支払拒絶について不法行為を認めている裁判例を見つけることはできませんでした。

法的構成としては不法行為と構成するもの、債務不履行と構成するものがありましたがいずれも認められていませんでした。理由を考えるに、支払拒絶に対しては、遅延損害金の支払いにより損害賠償がなされているという考えがあるようです。現実に裁判例でも、そのようなことを言及していたものがありました。

しかし、不当な支払拒絶により裁判を余儀なくされた保険金請求者の時間的、経済的損失は遅延損害金のみによっては十分に回復できません。今後、新しい裁判例が出ることを期待したいと思います。